SNS運用の薬事担当者向け薬機法・景表法の重要ポイント

目次
- はじめに
- 発信者による広告扱いの違いを理解する
- 会社・公式アカウント
- スタッフのアカウント
- 第三者(お客様・インフルエンサー等)
- 投稿チェックの3STEP
- STEP1:景表法チェック
- STEP2:薬機法該当性の判断
- STEP3:表示内容の分類と個別チェック
- SNSで措置命令を受けた実例
- 事例1:株式会社アクガレージ及びアシスト株式会社
- 事例2:ロート製薬株式会社
- 実践的な管理体制の構築
- 必要なアクション
- チェック体制の整備
- 教育・研修の実施
- SNS特有のリスクと対策
- プラットフォーム別注意点
- 炎上リスクへの対策
- まとめ
はじめに
SNSマーケティングが企業の重要な戦略となった現在、薬機法や景表法の規制は従来の広告媒体を超えて、Instagram、YouTube、X(旧Twitter)、Threadsなど、あらゆるSNSプラットフォームに及んでいます。
中小企業の薬事担当者にとって、SNS運用における法的リスクの理解と適切な管理体制の構築は、もはや避けて通れない重要な課題です。本記事では、SNS運用で特に注意すべき薬機法・景表法のポイントを実践的に解説します。
発信者による広告扱いの違いを理解する
SNS運用において最も重要なのは、「誰が」「どのような立場で」発信するかによって、広告扱いになるか否かが決まることです。
1. 会社・公式アカウント
必ず広告扱いとなります。薬機法・景表法の規制が全面的に適用されます。
2. スタッフのアカウント
立場や目的によっては広告扱いとなります。
- 会社の指示で投稿する場合:広告扱い
- 業務の一環として投稿する場合:広告扱い
- 完全に個人的な投稿:非広告(ただし、会社との関連性が明確な場合は要注意)
3. 第三者(お客様・インフルエンサー等)
投稿内容を指示して依頼すれば広告扱い、自発的な投稿であれば非広告です。
広告扱いとなるケース
- 投稿内容を具体的に指示
- 投稿のタイミングを指定
- 特定の表現を使用するよう依頼
- 報酬を支払って投稿を依頼
重要なポイント
- 会社・公式以外のアカウントが広告投稿を行う場合は、「PR」「広告」「タイアップ」等、広告であることがわかる文言を明示する必要があります(ステマ規制対応)
- Instagram、YouTube、X、Threads等、媒体を問わず適用されます
投稿チェックの3STEP
SNS投稿の薬事チェックは、以下の3ステップで体系的に行います。
STEP1:景表法チェック
確認項目
- 虚偽誇大な内容はないか(優良誤認)
- 価格や取引条件に関する誤認表示はないか(有利誤認)
- 広告投稿の場合、「PR」等の表記があるか(ステマ規制)
STEP2:薬機法該当性の判断
表示が商品の広告に当たれば薬機法が適用されます。
- 商品名や商品画像の掲載
- 商品の特徴や効果に関する言及
- 購入を促す表現
STEP3:表示内容の分類と個別チェック
投稿内容を以下の3つに分類し、それぞれの基準でチェックします。
A. 一般情報
内容例:季節的な肌の変化、美容・トレンド情報など チェックポイント:商品と直接関連付けていないか
B. 商品説明
チェックポイント
- 保証的表現はないか(「絶対に」「必ず」等)
- 効能効果の逸脱はないか
- 基本的な薬機法ルールを守れているか
C. 使用体験談★
最重要チェック項目
- 効能効果や安全性に関わる表現はないか
- 使用法、使用感、香りのイメージの範囲に留まっているか
- 薬機法ガイドラインF7.3の基準を満たしているか
体験談の判断基準
- 文章:発信者が主語になっていれば体験談(「私の肌が~」「~と思った・感じた」)
- 画像・動画:使用方法の説明はOK。使用前後の比較画像・動画は効果表現となりNG
SNSで措置命令を受けた実例
事例1:株式会社アクガレージ及びアシスト株式会社(2021年11月9日)
参考:株式会社アクガレージ及びアシスト株式会社に対する景品表示法に基づく措置命令について
違反内容
- バストアップサプリについて、飲むだけで豊胸効果があるような表現でInstagramで広告
- 食品でありながら医薬品的効果を標榜
学ぶべき点
- 健康食品であっても身体の変化を示唆する表現は危険
- Instagramの投稿も従来の広告と同様の規制対象
事例2:ロート製薬株式会社(2024年3月15日)
参考:ロート製薬株式会社に対する景品表示法に基づく措置命令について | 消費者庁
違反内容
- Instagramのタイアップ投稿をランディングページに転用
- 転用先ページでタイアップ投稿であることが不明瞭
- ステマ規制に抵触
学ぶべき点
- SNS投稿を他の広告媒体に掲載する際は、必ず「タイアップ投稿」であることを明記
- 「PR」等の表記が必要
- 大手企業でも見落としがちな盲点
実践的な管理体制の構築
必要なアクション
1. NG表現リストの作成と共有
投稿者に対し、最低限のNG表現リストを作成
- 驚異的効果を示す表現(「劇的」「驚異的」「奇跡的」等)
- 治癒・改善を示す表現(「完治」「根本改善」「治る」等)
- 安全性を保証する表現(「肌荒れなし」「絶対安全」等)
- 効果を断言する表現(「必ず」「絶対に」「100%」等)
2. チェック体制の整備
事前チェック体制
- 投稿前の必須チェック工程
- 薬事責任者による最終確認
- 外部専門家によるダブルチェック(必要に応じて)
事後対応体制
- 問題発見時の即座修正・削除体制
- 該当アカウントへの迅速な連絡手段
- 改善措置の記録・報告体制
3. 教育・研修の実施
対象者別の研修プログラム
- 公式アカウント運用者:薬機法・景表法の基礎知識
- スタッフ:個人アカウントでの注意点
- 協力インフルエンサー:依頼投稿時の遵守事項
SNS特有のリスクと対策
炎上リスクへの対策
予防策
- 投稿前の複数名によるチェック
- 過去の炎上事例の定期的な学習
- 危機管理マニュアルの整備
発生時の対応
- 迅速な事実確認と対応判断
- 適切な謝罪と改善策の提示
- 再発防止策の公表
まとめ
SNSマーケティングにおける薬機法・景表法の遵守は、単なる法的リスクの回避にとどまらず、消費者との信頼関係構築の基盤となります。
成功のためのポイント
- 発信者の立場による広告扱いの違いを正確に理解
- 体系的な3STEPチェック体制の構築
- 実例に学ぶリスク意識の共有
- 継続的な教育・研修の実施
中小企業においては、限られたリソースの中で効率的にSNS運用の法的リスクを管理することが重要です。基本的なルールを理解し、適切なチェック体制を構築することで、安全で効果的なSNSマーケティングが実現できます。
不明な点や個別の判断に迷った場合は、早めに薬機法・景表法の専門家に相談することを強くお勧めします。
このブログは薬機法広告規制の一般的な解説であり、個別の案件については必ず専門家にご相談ください。最新の法令改正情報についても、定期的に確認されることをお勧めします。
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